ニキシュとベルリン・フィル

元祖爆演指揮者フルトヴェングラーの前代にベルリン・フィルの指揮者を務めていたアルトゥール・ニキシュと、当時のベルリン・フィルの面々が、ベートーヴェンの第5交響曲を録音する際に撮影されたと言われる集合写真である。当時流行の髭をたくわえた男たちの顔を見ての通り、ひとりひとりが誇り高き芸術家の集まりだったはずだ。
ニキシュの指揮は、近代的な合理性に貫かれた指揮法の確立者とも評される、洗練されたものだったらしい。ニキシュの後任フルトヴェングラーが、「偉大なる素人」と揶揄されることもあるほどの爆発的表現力を売り物としていたのと、ニキシュの洗練された(と言い伝えられる)指揮ぶりは、意外に対照的なものだったのかもしれない。
マーラーやトスカニーニが、楽団員に対して威圧的で罵倒することも辞さない厳しい指揮者だったのに対して、ニキシュ、そしてワルターは、終始柔らかく、温和にオーケストラをまとめ上げ、結果としてはニキシュならでは、ワルターならではの音楽を彼らから自発的に引き出してしまう、類稀れな能力の持ち主だったという。
ところが更にフルトヴェングラーは、威圧的とか温和とかいう次元を超越したある種崇高な雰囲気のリハーサルをしていたというのだから、やはり20世紀最大の指揮者と言われるだけのものはあるのかもしれないが、そのフルトヴェングラーが最も多くのものを学び、心酔していたという指揮者が他ならぬニキシュだったのである。
今日のわれわれはニキシュの芸術をほとんど想像の世界でしか思い描く事ができない。しかし、彼がどんな男で、どんな芸術家だったのかということを、現代のわれわれに残された僅かな記録から、推測することを試みる価値は、今なお充分にあると思われるのである。
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